MOMO の根 – 鉄集めの旅

“Mix Of Mountain & Ocean”

三井ガーデンホテル岡山 / 2026年8月 リニューアル

豊かな山々と穏やかな瀬戸内海。岡山には両者を同時に一望できる景勝地が多く存在し、旅人を癒す。この地の景観に着目し、岡山県内を巡りながら「山の鉄廃材」と「海の鉄廃材」を集め、熱し、槌を入れ、つなぎ合わせていく。こうして作られた本作品は、桃の木をかたどったレリーフであると同時に、「山の暮らし」と「海の暮らし」が混ざり合った姿を表現している。


2026年春、花盛りの岡山にて。ハイエースで県内を巡り、その場所で使われてきた鉄やステンレスの廃材をご提供いただき、桃の木の姿のアートワークを制作しました。本記事では、制作の重要プロセスだった現地での鉄集めを振り返りながら、材料提供して下さった方々や道中の素敵な景色をご紹介してまいります。


山㟁卓(藍染作家 / 岡山市)

山㟁さんは岡山市内で活動している藍染作家さんで、今回のホテル1F、エレベーター前に作品を設置された方です。岡山市の山あいの工房で、藍染の原料である蓼藍(タデアイ)の栽培からご自身で行なっている、まさに「藍と共に生きる人」。爽やかさと力強い生命感が同時に感じられる山㟁さんの作品は、彼が積み重ねた1日1日が、じわりじわりと藍に宿った姿なのかもしれません。今回の鉄集めでは、工房に隣接された納屋から、使っていない農具などを頂戴しました。

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ナイカイ塩業株式会(玉野市)

かつては広大な塩田で、現在はイオン膜製塩法で製塩業を営む、ナイカイ塩業さま。塩田跡地にある塩竈神社も管理されていて、とても丁寧に手入れをされているのが随所から伝わってきます。塩竈神社は潮風を感じながら塩田の歴史に触れられる、気持ちの良いおすすめスポットです。
また、塩田跡地には神社だけでなく、野球場、体育館、サッカー場を作って子供たちへ開放しており、広く社会貢献をされている企業です。今回の鉄集めでは、工場内で使われていたステンレス製の機材部品をご提供いただきました。

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胸上漁業協同組(玉野市)

近頃は岡山に行ったら必ず、お土産で海苔を買って帰ります。この海苔漁をされているのが、玉野市の胸上漁協さまです。「もぐり船」という珍しい形状の漁船で船の上いっぱいに海苔が流れる景色は、春の胸上の風物詩。現在は地元の子供達を対象に、海苔漉き体験も開催されています。
今回の鉄集めでは、錨と、加工場で海苔を四角く整形する時に使う鉄フレームをご提供いただきました。この鉄フレームがリズミカルな小枝となり、桃の木の枝ぶりを表現するのに大活躍してくれました。

▶︎ 海苔漁の様子(玉野市公式INSTAGRAM)


いきこと農(津山市)

県北、津山市でお米づくりを営んでいるいきこと農場さま。「いきることは、食べること」という信条で大自然と向き合い、農薬を使わずに有機肥料を使ってお米を育てていらっしゃいます。大小さまざまな農具をご提供いただいた中で、特に整地板(トラクターに取り付けて、地面を平にする機具)の存在感が抜群で、作品の太い幹として活用しました。代表の田邊晃次さんは「こんなに錆びててもいいの?」と驚かれていましたが、そこには錆びているからこその良さがあります。熱して叩いて磨いて…を繰り返すことで表面の錆は剥がれ落ち、次第に岩肌のようなナチュラルな表情が現れてきます。人の手では作れない、津山の土壌が育んだテクスチャーにご注目下さい。
また、加茂川沿いを走る農場までの道中が開放感に溢れていて、特に最寄のJR知和駅はおとぎ話に出てきそうなロケーション。秘境駅として、全国からファンが訪れる名所でもあるそうです。

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三井ガーデンホテル岡山(岡山市)

お施主さまからも、鉄材をご提供いただきました。改装中の現場にお伺いし、空調用のダクトパイプや細かな金物を大量に拝受。「この場所で役目を終えた鉄材が、新たな空間で再生し、華やかに彩る」というストーリーを象徴する存在です。特にダクトパイプは、通常の鉄パイプよりも薄い材で作られているので、叩くと細かなシワが生まれます。このくしゃっとしたシワを活かして、桃の花の細かな密度感を表現しました。
幸運にも現地で桃が満開の時に鉄集めができたので、その道中の美しい景色を思い返しながら、金槌を振るいました。

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三菱重工マリタイムシステムズ株式会社(玉野市)

頻繁に岡山県に出入りするようになったのは、2013年の瀬戸内国際芸術祭への参加がきっかけです。そして巨大な造船所のある玉野市玉地区は、芸術祭のための鉄集めを初めて行なったエリアでもあります。海沿いのトンネルを抜けたら突然眼前に広がるクレーン群に圧倒され、近隣の玉比咩神社の巨岩に再び圧倒され…当時のインパクトは今も褪せることなく、僕にとってのパワースポットと化しています。
巨大クレーンのある三菱重工マリタイムシステムズさまは、防衛省向けの艦艇や海上保安庁向けの巡視船など、最新鋭の艦船建造を手掛けています。鉄集めでは、足場などでよく見る着脱式階段やH鋼、端材などをご提供いただきました。特に階段のフック部分は作品全体のアクセントとして効果的で、意匠的にもとても役立ってくれました。

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株式会社 宮原製作所(玉野市)

クレーンのある海岸通り沿いで、陸側を眺めると三角屋根の大きな工場が目に飛び込んできます。株式会社 宮原製作所さまは船用ディーゼルエンジン部品の組み立てや精密な機械加工を行なっている企業です。
緊張感たっぷりなお仕事内容とは対照的に、代表取締役社長 宮原浩光さまはとても気さくで親しみやすい方でした。お会いした際、朗らかな表情から溢れ出す「楽しもう精神」に、僕自身も感化されたところがあります。何事もワクワクを忘れずに、ディテールに目を凝らそう。材料以外にも、大切な心構えを頂けた気がしています。
実際にご提供頂いた材料は、クロム鋼の太いボルトやシャワーヘッドです。シャワーと言っても人間用のシャワーでなく、金属部品冷却用のシャワーとのこと。こちらは桃の実を連想するようなフォルムに仕立て、小さな子も手が届く位置に配置しています。

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個人の農家様(総社市)

総社市と言いつつ、なぜ写真は倉敷かというと…とある知人のご実家が倉敷市にあり、総社市で農業を営んでいて、不要な農具をご実家で提供していただいた、という経緯です。写真はその時に立ち寄った、倉敷の美観地区です。
実は今回の鉄集めでは、「なんとしても備中鍬を入手したい!」と目論んでいました。備中鍬とは2〜6本爪の鉄製の鍬の総称です。現代ではホームセンターなどでもよく見るメジャーな農具ですが、その発祥は備中松山藩(現:岡山県高梁市付近)です。
時は江戸時代後期、それまで財政難に苦しんでいた備中松山藩。当時の家老、山田方谷によって「土がくっつきにくいように改良された新たな鍬」が現地の砂鉄で生み出され、全国的なヒット商品となり、藩の財政をV字回復させたという逸話があります。それが備中鍬の名を冠し、現代も変わらず使われていることに凄みを感じます。
なので「岡山の歴史に関わっていて、それでいて現代人にも身近なアイテム」として備中鍬をずっと探していて、ついに倉敷で個人の農家様からご提供いただけました。
高梁市にルーツを持ち、総社市の土で育まれ、倉敷市でとある鉄作家に受け継がれ、これから岡山駅前のホテルを彩る1本の鍬。どうかややこしがらず、人々の知恵と鉄が織りなす物語をお楽しみ下さい。



材料マップ

山の鉄と海の鉄。そこに改装前の現場から出た鉄が混ざり合い、さまざまな記憶を宿した樹木になります。
鉄集めだけで、東京-岡山間を5往復しました。必要量の倍以上の鉄材が集まったので、まずは特徴的な部分を切り出して、本格的な実制作へ。


メイキング

関わって下さった方々と共に胸を張れる作品を目指し、皆様のお力添えによって実現に辿り着けました。
鉄材をご提供頂いた皆様、ご支援頂いた皆様に、厚く御礼申し上げます。


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