地熱の扉

いちはらアート×ミックス2017 / 恒久設置 / いちはらクオードの森, 千葉県市原市

素材の原点を探るべく、鉄の道具を、鉄に戻す。
その方法はいくつかある。溶鉱炉で溶かす、粉々に削ってしまう、海に沈めて朽ち果てさせる…などなど。しかし、いったん人の手が入った鉄の道具たちは、本来の自然の姿である鉱石に戻ることはできない。ならば人の記憶を残したまま、化石のように自然に同化させていく事は可能だろうか?
化石には太古の記憶が眠っている。石化した動植物には、彼等が活動していた時代の情報を多く含み、図らずもそれを未来へ伝える役割を担っているものだ。生きていた者達が周囲を生かす存在へと変わり、自然界のサイクルとして延々と続き、現代、未来へと記憶を紡いでいく。

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鉄の道具たちもまた、かつては大地の一部だった。
それが人の手に渡り、様々な文化を形成していくことになる。その歴史を肯定的に受け止めて、なおかつ原点回帰させる術を模索した結果、真っ赤に熱して叩くという作業に辿り着いた。何も考えずに、ただただ原始的に叩く。もしくは、ひたすら叩くという単純作業の繰り返しで、欲や思考を麻痺させていく…とも言えるかもしれない。造作でも破壊でもないニュートラルな作業だ。
ここから産まれたものは何か。ある意味、機能も構造も排除された「ただの鉄」であるが、そこには人工物としての死と、自然物としての再生が共存している。道具の名残を残しながらも、体温や脈拍といった生命感が宿っている。これらを無数に集めて再構築し、巨大な「文明の化石」を形成する。
フィールドとなる市原市内には、北部には大規模な工業地帯、南部にはのどかな里山が広がる。しばし両者は対比的に見られがちだが、私はその狭間にあるゼロ地点のような存在を作り、繋げたい。本プロジェクトを充実したものにする為には、文明に関わりの深い素材が最適と考え、鉄を選んだ。地熱の扉とは、人工物と自然物、あるいは過去と未来の境界に立つ、一枚の鉄扉である。


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